DPC調査の提出ファイル「様式1」。
様式1は構造が複雑なため、入力に苦労されている医療機関も少なくないのではないでしょうか?
また、様式1をこれからはじめて作るという方には仕様が複雑で全然わからないという方も多いのではないでしょうか?
ここではそんな疑問にお答えするべく、この記事では様式1の特徴を紹介していきます。
この記事ですべて紹介できないくらい様式1は複雑なものですが、大事なところを少しでもお伝えできるようポイントを絞っています。
著者は入院医療に関する事務のシステム開発に携わり、様式1の入力部分にも携わっているので、勉強した際に苦労した点を重点的に紹介していきます。
この記事は2020年診療報酬改定をもとに作成しています。
目次
1.DPC調査について(おさらい)
様式1を提出するDPC調査について、DPC調査での様式1の位置づけを改めてこの章では確認していきます。
1.1 DPC調査とはなにか?
DPC/PDPSでは診断群分類ごとに包括点数が設定されています。
この分類や点数を決めるために行われているのがDPC調査です。
各医療機関で作成されているDPCデータはこの診断群分類や包括点数を決めるために収集されています。
多くの種類のデータを集めているので、診断群分類や点数以外にも日本の今後の医療方針を決めるために様々な分析にも使用されているみたいです。
下記の記事でDPC制度や調査について、まとめているので詳しく知りたい方は参考にしてください。
https://medical-information-room.com/dpc_institution_research/
1.2 DPC調査に参加する医療機関はどこか?
このDPC調査に参加する医療機関は大きく2つに分類されます。
- DPC制度に参加しているDPC病院、DPC準備病院
- データ提出加算を算定する医療機関
まず、DPC制度に参加しているDPC病院は包括支払い請求をしている病院です。
そのため一番DPCに関係している医療機関とも言えます。
DPC準備病院はDPC病院となるために、データを正しく提出することができるが確認している病院です。
現状ではこのDPC準備病院に参加の届け出を行い、提出内容が認められてDPC病院になることができます。
続いてデータ提出加算を算定する医療機関です。
こちらは入院加算のため、DPC病院、準備病院、出来高病院問わず届け出ができ、届け出ている病院はDPCデータの提出が必要になります。
データ提出加算については別記事でまとめていますので、詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
https://medical-information-room.com/a245_data_submission_addition/
1.3 DPC調査で提出するファイル
DPC調査で医療機関ごとに作成するデータは下記になります。
- 様式1(入退院情報、病名情報等)
- 様式3(施設情報)
- 様式4(保険情報)
- 入院EFファイル(入院における診療報酬算定情報)
- 外来EFファイル(外来における診療報酬算定情報)
- Dファイル(包括診療明細情報)
- Hファイル(日ごとの患者状態)
- Kファイル(共通IDに関する情報)
今回紹介する様式1はDPC調査でメインとなるファイルで入退院の情報や病名、手術、重症度を記載します。
構造も複雑なファイルのため、次章以降で作成のポイントを紹介していきます。
様式1以外の各ファイルの概要を知りたい方は下記もあわせてご確認ください。
https://medical-information-room.com/submission_dpc_data/
2.様式1の知っておきたい5つの特徴
ここからは様式1について詳しく見ていきます。
この章では様式1を作成するうえで知っておきたい様式1の特徴を紹介します。
様式1の特徴は
- データ構造「ペイロード」
- データ構造「子様式」「親様式」「再入院の様式」
- 様式1の提出範囲
- 様式1での病名
- 様式1での病棟分類
の5つが特徴的です。
これらについて一つずつ紹介してきます。
2.1 様式1のデータ構造「ペイロード」
まず様式1のデータ構造です。
こういうデータですと1行ごとに1入院のデータというイメージがありますが、様式1は違います。
複数行のデータで1入院を表現しています。
各行で記載しているデータを表すペイロード種別のコードが設定されており、入院情報やペイロード種別のコードで複数の情報を入力します。
例えば入院日や入院状況を記入するデータではA000020、医療資源病名を入力するデータではA006030を設定します。
2.2 子様式、親様式、再入院の様式
また、データ構造でポイントになるのは、子様式、親様式、再入院の様式があることです。
さきほど複数レコードで1入院を表現しているといいましたが、正確には1病棟での入院を表します。
この1病棟での入院情報を子様式といいます。
もし入院中に違う病棟に転棟したら、2つめの子様式を作る必要があります。
さらにその2病棟のデータを集約した親様式というデータを作る必要があります。
子様式、親様式の作成イメージとしては下図になります。
4/1に入院して4/10に退院した患者さんの例で、4/5に転棟しています。
このとき子様式は4/1~4/5(4/4)で一つ、4/5~4/10で一つ作成します。
さらに親様式として4/1~4/10でこの期間の入院情報を集約した様式を作成します。
続いて再入院の様式です。
DPC調査では再入院の取り扱いに厳しいことから、再入院の調査は念入りになされています。
再入院の取り扱いの条件になった場合は下記の図のように再入院の様式を作成する必要があります。
4/1に入院して、4/5に一度退院しましたが、様態が悪化し4/7に再入院という例です。
この場合は4/1~4/5で子様式1つ、4/7~4/10で子様式1つ、4/1~4/10で再入院のA様式を一つ作成します。
この再入院の様式を作る条件というのは診療報酬改定時にたびたび変わっていて、条件も複雑です。
こちらについてはこれだけで一本分の記事の分量になってしまうので割愛させていただきますが、詳細は調査実施説明資料を参考にしてみてください。
単純な入退院ではこれらの様式を作るのはそこまで難しくありませんが、転棟・再入院が複雑に絡んでくるとどの様式が必要になるを把握するのがかなり難しくなってきます。
調査実施説明資料にも様々なパタンが例として載っているので参考にしてみ下さい。
2.3 様式1の提出範囲
様式1はすべての入院患者に対して作成する必要はなく、決められた条件に合致する患者に対してファイルを作成します。
細かい条件もありますが、ここではポイントとなる代表的な条件を取り上げます。
- 調査期間中に退院または転棟した患者
- 医科保険で入院料を1日でも算定した患者
この2つが主な条件となります。
1つ目についてですが、様式1ファイルは月ごとに作成します。
2020年4月のデータを作成する場合は、2020年4月に退院または転棟した患者が対象となります。
このとき入院年月日は問わないとのことです(例外あり)
2つ目の医科保険についてですが、入院期間中に医科保険で入院料を1日でも算定すれば提出対象となります。
自費や他の保険診療を使用していても、1日でも医科保険で入院料を算定していれば提出対象となります。
逆に自費のみの入院や医科保険は一部の投薬等のみで入院料を算定していない場合は対象外になります。
また、DPCということで包括患者のみ提出すればいいのかなと思う方もいらっしゃいますが、包括・出来高問わず提出となります。
2.4 様式1での病名
様式1には6つの病名があります。
「主傷病」「入院契機となった傷病」「医療資源を最も投入した傷病」この3つが必須入力となります。
上記以外に、「医療資源を2番目に投入した傷病」「入院時依存症」「入院後発症疾患」の3つがあり、こちらはあれば入力する形になります。
それでは1つずつ病名を見ていきます。
「主傷病」は退院時サマリーの主傷病欄に記載される病名となります。
「入院契機となった傷病」は名前のとおり入院時の契機傷病を入力します。
「医療資源を最も投入した傷病」は1入院で医療資源(人やモノ)を最も投入した傷病です。
DPC調査ではこの「医療資源を最も投入した傷病」が重要な病名となる。
「医療資源を2番目に投入した傷病」が名前の通り医療資源を2番目に投入した傷病を記載します。
「入院時依存症」は入院時に発症していた疾患を記載するもので、主に「DPCの診断群分類の分岐に関わるもの」「慢性腎不全」「血友病・HIV感染症」「依存精神疾患」を中心に記入します。
「入院後発症疾患」は入院後に発症した疾患で、主に「DPCの診断群分類の分岐に関わるもの」「術後合併症」を中心に記入します。
同じ病名を入力するものもあれば、異なる病名を入力するものがあるので、それぞれ内容を理解して入力をしていきたい項目です。
2.5 様式1の病棟分類
様式1では入院している病棟を入力します。
入力する病棟は病院固有の病棟ではなく、様式1での病棟分類を入力します。
様式1での病棟は「一般病棟」「精神病棟」「その他病棟」となります。
それぞれ算定している入院料で分類されます。
「一般病棟」は下記の入院料を算定している病棟になります。
- 一般病棟入院基本料
- 特定機能病院入院基本料(一般)
- 専門病院入院基本料(7 対 1、10 対 1、13 対 1)
- 救命救急入院料
- 特定集中治療室管理料
- ハイケアユニット入院医療管理料
- 脳卒中ケアユニット入院医療管理料
- 小児特定集中治療室管理料
- 新生児特定集中治療室管理料
- 総合周産期特定集中治療室管理料
- 新生児治療回復室入院医療管理料
- 一類感染症患者入院医療管理料
- 小児入院医療管理料
- 短期滞在手術等基本料(2 及び 3)
- 救急患者として受け入れた患者が、処置室、手術室等において死亡した場合で、当該保険医療機関が救急医療を担う施設として確保することとされている専用病床に入院したものとみなされるもの
続いて「精神病棟」です。
- 精神病棟入院基本料(10 対 1、13 対 1、15 対 1、18 対 1、20 対 1)
- 特定機能病院入院基本料(精神)
- 精神科救急入院料(1 及び 2)
- 精神科急性期治療病棟入院料(1 及び 2)
- 精神科救急・合併症入院料
- 児童・思春期精神科入院医療管理料
最後に「その他病棟」です。
「その他病棟」はは上記以外の入院基本料、特定入院料等を算定する病棟となり、下記のような入院基本料があげられます。
- 障害者施設等入院基本料
- 回復期リハビリテーション病棟入院料
- 地域包括ケア病棟入院料(地域包括ケア入院医療管理料を含む)
- 結核病棟入院基本料
- 療養病棟入院基本料
- 特殊疾患入院医療管理料
- 認知症治療病棟入院料 等
様式1での転棟もこの病棟間を移動した場合に転棟ありとなります。
患者が病棟を移動しても、この病棟の分類が変わっていなければ様式1上は転棟扱いにならないことも注意したいポイントです。
参考文献
■調査実施説明資料
3.様式1の入力項目にはどんなものがあるか?
この章では様式1で入力する項目を大きな分類ごとに紹介します。
様式1はペイロード単位でそれぞれ入力しますが、大きく下記の5つに分類されると考えています。
- 入院情報
- 患者情報
- 病名
- 手術
- 診療情報・重症度等
こちらについて一つずつどういった情報を入力するか簡単に紹介していきます。
3.1 入院情報
入院医療に関するデータということで入院情報をまず入力します。
入力項目のほとんどが必須項目となります。
入院日や退院日はもちろん、どこから入院してきた、どのように入院してきたやどこに退院したといった情報を入力します。
3.2 患者情報
患者の情報についても入力します。
患者を特定する情報(氏名や住所)の入力はありませんが、生年月日や性別、身長体重といったものの入力があります。
また、喫煙や妊娠、高齢者情報等、医療に関係性が深い情報についても入力します。
3.3 病名
2.4章様式1の病名でも紹介した病名を入力します。
病名のほかにもICD10、傷病名コード、修飾語コードについてもあわせて入力します。
指定難病の対象になっている方は、難病の情報も記入します。
3.4 手術
入院期間中に実施した手術を入力します。
手術の点数表コード(Kコード)やSTEM7コード、手術の細かい情報をあわせて入力します。
最大5件まで入力し、6件以上ある場合は主たる手術を記載します。
3.5 診療情報・重症度等
患者の状態や診療行為の有無を入力します。
必須の項目もあれば、該当する病名の場合に入力が必要な項目があります。
診療報酬改定でよく入力項目が追加されたり、変更になったりするところです。
2020年の診療報酬改定では大きなところでは地域包括ケア病棟の入退棟時のADLスコアの追加、要介護度・要介護情報の入力必須化といった変更がありました。
その他にも癌や肺炎等、代表的な疾患に対する入力項目もあります。
参考文献
■調査実施説明資料
まとめ:様式1の特徴
様式1を作成するうえで特徴となるところを紹介しました。
かなりボリュームがある内容だったと思います。
今回は特徴ある部分をかなり絞って紹介していますが、これだけの量になっています。
様式1には多くの入力項目があるので、これからも診療情報や重症度を中心に取り上げていきたいと思います。
最後にこの記事のポイントを振り返ってみます。
- 様式1は入退院情報、患者情報、病名、手術、診療情報、重症度を記入する
- 特徴あるデータ構造として「ペイロード構造」「子様式」「親様式」「再入院の様式」がある
- 「医療資源を最も投入した傷病」は1入院で医療資源(人やモノ)を最も投入した傷病
- 様式1で入力する病棟は「一般病棟」「精神病棟」「その他病棟」のなかから入力する